戯曲について

ギリシュ・カルナド（Girish Karnad）の戯曲の手法は、現在を照射するために過去の物語を用いる。この「ナーガ・マンダラ」の中にも、コンナダ地方に伝わる民話が織り込まれている。粗暴な夫が蛇の化身である情熱的な愛人となる物語。これは夫の演じるゲームなのか。または別々の二人を描いている演劇なのか、それとも一人なのか。孤独な女が空想の自分との間で対話を織り成しているだけなのか。
夫も蛇も互いの存在を知らないが、互いのなかに存在し、互いにもう一方から切り取られた自分なのである。空想と幻影とのダイナミックな戯れの中で、互いに矛盾し対照的な存在となっている。
劇作家カルナドは複雑で挑発的な両義性をおびた世界を描くことで、創造性の意味を探ろうとしている。そこでは、想像上の人物と、実在の人物とが混ざり合い、目に見えるものと見えないものとの境界線がぼかされていく。彼の作品の魅力は、伝統的、民話的な形式を取りながらも、現代的、同時代的な問題が扱われているところである。物語は、日常的な事柄、掃除や料理といった“現実”に根をおろしている。しかしその現実の世界にあって、登場人物はまた、何でも起こり得る変幻自在の魔法の世界へ飛翔し、そこに住む。炎がおしゃべりを始め、物語そのものが役柄をもった人物のように語りだす。蛇は人間の姿となり、女は自らの想像力で、物語を書くのである。

《劇評》
「民俗的な伝統に依拠しながら独自の演劇的ボキャブラリーとなる要素をそこから抽出、再構成し、現代演劇の先鋭的なイディオムを作りだしている」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　（インディアン・エクスプレス紙）

表現の強度：女性演出家の想像／創造力　 外岡尚美（演劇研究家）
チャウドゥリーさんは、女性の情熱やセクシュアリティ、そして母性について、それまでのインド演劇にはなかったような鮮烈な表現を見出した演出家だ。強烈な性格の女性キャラクター、そして女性の感情の振幅を描ききることの出来る表現者である。日常から想像／創造の世界へ。猥雑な日々の瞬間に風穴が明けられ、思いもしない詩的世界が開ける。文化を横断して共有される、そんな表現の強度、飛翔する想像／創造力に、今、出会える。　

現代インド演劇の魅力　鴻英良（演劇批評家）
ヒンドゥーの大祭のための巡礼行がテクノロジーの急速な進歩と同居する国、インド。激しく無媒介的に異種なものが接続するときに生み出すエネルギー、それはときに融合を促し、ときに激しい亀裂を生み出す。インドの女性たちが、その中で何を奪われていたのか、あるいは何を手にしているのか。チャウドゥリー氏の舞台が魅力的なのは、そうした歴史の中に生きた人々の姿が実にリアルに繰り広げられているからなのだと私は思う。